風薫る

                                 24年5月3日             

                                                      


ゴールデンウィークの日々、楽しくお過ごしでしょうか。
幼い頃に見た田舎の景色には、とても大きな鯉のぼりが屋根の上で風になびいていた姿があります。
ゆっくりと空を泳ぐ鯉のぼりを見ながら、のどかな暮らしが永遠に続くと信じていた気がします。



先日、福島の有名な滝桜を見に行った友人の話を聞き、地元の子供たちはどのような思いで子供の日を過ごしているのだろうとあんじられました。
友人は、桜見物の後一般道を通って東京に帰ろうとしたのだそうですが、気がついたら原発の避難区域近くを走っていたのだそうです。
テレビで見た悲惨な光景によく似た所もあれば、荒れた田んぼの真ん中に車が折り重なって錆びかけていたり、家はあっても人の気配はないといった様子、地震直後の凄まじい状況が手付かずのまま残された街について、話してくれました。
余程ショックだったらしくほとんど涙目で、いつもの快活さはありませんでした。



いまだ、34万人が地震によって避難生活をしていらっしゃるそうですが、人々にとって故郷を去らなければならない状況は、本当に大きな苦しみではなかろうかと想います。
津波や地震によって家や家族を失い、さらには故郷を失うという二重三重、それ以上の喪失感を抱えながら他の地で生活するという困難など・・・・。



今子供時代を過ごしている人々は、5月の空にどんなものを見ているのだろうと思います。
私が幼い頃に見た、永遠の安心感を子供たちは目にしているのだろうか・・・。
大地が放射能で汚染されていて、これから何十年もその汚染を恐れながら生きて行かなければならないなんて、
安心の未来など想像すら出来ないのではないでしょうか。


しかし、だからといって成すすべも無く泣いているわけにはいきません。
「内側にあるがごとく」という言葉があるように、今の状況は私たちの心の中にあったものが形をとったものです。
安心を生み出さないもの、破壊を生み孤立を生みそして苦しみを生み出すものは、まず心の中で創られます。
始めにあったものが結果として現れてくるからです。心の中にあるものが、形としてそのまま外側に現れてきます。
だとしたら、これからの未来を創り出していくための、今がその始まりだということではないでしょうか。
永遠の安心を子供たちにあげられるために、私たちが今準備しておくことを、しておこうと思います。



では始めに何がなければならないのでしょうか。
平和な心が創り出すものは平和だろうと思います。安心と愛が創り出すものは安心と愛だろうと思います。
私たちは今、真剣にそのことと向き合わなければなりません。
私の心に今、何を創造しているのかと。
そして子供たちが生まれた故郷の土地で美しい空を、安心して眺めることが出来る未来を創りたい。
おそらく100年前の日本の人々にとって、こんなあたりまえのことを口にすることすらなかったに違いありません。
でも、今それは自分たちの手で創らなければあり得ない大きな課題となっています。



友人は、旅から帰って来てパッチワークを始めました。
戦争中に戦地に送り出す家族のために、日本のお母さんたちは、無事に生きて帰って来られるように祈りを込めて一針一針縫った布を持たせたそうです。彼女は被災した人々のために、祈りを込めて縫うのだそうです。
ずっと残しておきたいものを心の中に今日、私も創ろうとおもっています。

                                                                      
                                          葉香

前頁を見る                         次頁を見る        

               ホームに戻る